しんぞうべんまくしょう
心臓弁膜症

5. 各種心臓弁膜症の種類と症状

心臓の4つの弁には、いずれも異常が生じることがあり、心臓弁膜症となります。特に多い次の4つについて説明いたします。
1.大動脈弁狭窄症
2.僧帽弁閉鎖不全症
3.大動脈弁閉鎖不全症
4.僧帽弁狭窄症

1.大動脈弁狭窄症

1.どのような病気?
高齢化社会とともに増加している心臓弁膜症です。
70歳を過ぎて心雑音があると言われたら、考えるべき疾患の一つです。
心臓の出口にある大動脈弁が開かなくなり、心臓から十分な血液を送り出すことができなくなります。また、その分左室の圧が高くなり、心臓は肥大し、心臓の働きは低下します。
病気が進行して症状が出現するようになると突然亡くなることもあり、このような場合は早急に手術が必要です。
原因は動脈硬化と同じように大動脈弁が硬くなって、癒着し、開放が制限されることで起こることが多くなっています。したがって、動脈硬化を合併した高齢者では、特に注意が必要です。
生まれつき大動脈二尖弁があると、若い人でも大動脈弁狭窄症になることがあります。



2.どのような症状が出るの?
心臓の圧が高まるために肺に負担がかかり、息切れや呼吸困難を生じます。
心臓から出ていく血流が少なくなるために、脳の血流も低下し、めまいや失神を起こすことがあります。
また、高度な左室肥大や同時に起こる冠動脈狭窄で、階段を上ったときや走ったときに狭心痛(胸の痛み)を生じます。
重症例では稀ですが突然死の危険もあります。

3.治療法は?
高血圧などの基礎疾患の治療は必要です。
軽度〜中等度では定期的に経過を見るのみで大動脈弁狭窄症に対する治療の必要はありません。
重症になれば、外科的に人工弁を使った弁置換術を行います。
また、外科手術の危険が高い場合には、カテーテルを用いた弁置換術が適応となる場合もあります。

※カテーテルによる大動脈弁置換術
大動脈弁狭窄症で、高齢やその他の疾患等で手術による治療では命にかかわる危険性が高い方に対する新しい治療法で、開胸する事も、心臓を止める事もなく機能が低下している心臓の弁(大動脈弁)をカテーテルと呼ばれる医療用の管を使って人工の弁におきかえる治療法です。

2.僧帽弁閉鎖不全症

1.どのような病気?
最近増加している心臓弁膜症です。
僧帽弁逆流とも呼ばれ、僧帽弁がうまく閉じなくなり、左心室から左心房へ、血液が逆流します。
そのため、左房圧が上昇して心不全症状を生じます。
一旦左心室に入った血液が左心房に戻るため、左心室に負担がかかります。
重度になると心臓の拡大と機能低下が起こります。症状のないまま心臓の働きが低下することがあるので注意が必要です。また、心臓の負担から不整脈を生じることもあります。
様々な原因があります。僧帽弁が変性して閉じが悪くなったり、僧帽弁を支える糸のような構造物が切れて完全に閉じなくなったりします。中には心臓が拡大するのに伴い僧帽弁膜の可動性が低下してしまりが悪くなる病態もあります。

2.どのような症状が出るの?
肺に負担がかかり、息切れや呼吸困難を生じます。
また、心臓の働きの低下も息切れや呼吸困難の原因となります。不整脈が出やすく、動悸やめまいを感じることがあります。
症状がなくとも、心臓の機能低下が進行することがあり、定期的な検査が必要です。

3.治療法は?
軽度〜中等度では定期的に経過を見るのみで治療の必要はありません。
重症になれば、外科的に逆流を止める手術が必要になります。 
手術法としては、自分の弁を修理する弁形成術と、人工弁を使う弁置換術があります。どちらの術式が良いかは、よく検査をして決める必要があります。

3.大動脈弁閉鎖不全症

1.どのような病気?
大動脈弁逆流症とも呼ばれ、大動脈弁の閉じ方が不完全なために、大動脈から左室への逆流が生じます。
左心室の負担が生じて心臓の拡大と機能低下がおきます。
逆流量が増加したり、左心室の機能低下が起こると、血液の流れが滞るようになり、息切れや呼吸困難を生じます。
大動脈弁の硬化、大動脈の拡大、血管炎、マルファン症候群のような大動脈の疾患、薬剤性など様々な原因で起こります。
生まれつき大動脈二尖弁があると、若い人でも大動脈閉鎖不全症になることがあります。

2.どのような症状が出るの?
病状が悪化するまで症状が出にくいのが特徴です。反対に症状が出たら進行している可能性があります。
階段を上ったときや走ったときなど、特に激しく体を動かしたときにだるさ(倦怠感)や息切れを生じることがあります。
まれに狭心痛(胸の痛み)を生じることがあります。
重症になるとめまいや失神を起こすことがあります。

3.治療法は?
軽度〜中等度では定期的に経過を見るのみで治療の必要がないことがほとんどです。
重症になれば、外科的に人工弁を使った弁置換術を行います。
弁の状態がよければ、自分の弁を修理する、弁形成術の適応となることがあります。

4.僧帽弁狭窄症

1.どのような病気?
多くはリウマチ熱の後遺症ですが、まれに先天性や加齢に伴う弁の硬化変性で生じることもあります。
左室と左房の間(左心室の入り口)にある僧帽弁が狭くなり、血流が左室に入りにくくなります。その結果、心臓から十分な血液を送り出すことができなくなります。
同時に、左心室の手前にある左心房では内部の圧が上がります。肺に負担がかかり、心不全を生じます。また、不整脈の原因となり、心臓に血液がよどむために血栓症(脳梗塞など)の危険が高くなります。

2.どのような症状が出るの?
肺に負担がかかり、特に体を動かした時に息切れを生じます。
血液の循環が悪いために、むくみや食欲低下が起こります。
心臓から出ていく血液が少ないために、疲れやすくなります。
不整脈が出やすく、動悸やめまいを感じることがあります。
心臓の中に血栓が生じると、脳梗塞など重篤な血栓塞栓症を引き起こすことがあります。

3.治療法は?
軽度の狭窄であれば、不整脈を予防する薬、血栓を予防する薬、心臓の負担を減らす薬などで様子を見ます。
心不全症状が出るなど重症の場合、弁の状態を見て、カテーテルで弁を広げる手術、あるいは外科的に人工弁置換手術(心臓外科の項参照)などを行います。どの治療法が良いかは、よく検査をして決める必要があります。