「心筋梗塞患者に対するエポエチンベータ投与による
心機能改善効果に関する研究−U(EPO-AMI-U) 」


急性心筋梗塞は依然死亡率の高い疾患であり、また梗塞後慢性期に心不全へ進展するため、急性心筋梗塞に対する新しい治療法の開発は重要な課題です。急性心筋梗塞に対する治療では、1)閉塞した血管の可及的すみやかな血流再開、2)血流再開後の薬物療法による心筋保護が大切です。早期血流再開に関しては、心臓カテーテルによる再灌流療法が広く普及していますが、血流再開後の薬物療法は確立されていないのが現状です。

近年、私たちは、急性心筋梗塞患者様を対象とした探索的臨床試験を実施し、再灌流療法成功後にエリスロポエチン静脈内単回投与することにより、慢性期心機能が改善することを報告しました(Circ J, 2010)。このパイロット試験では、明らかな副作用は認められませんでした。

そこで、プラセボを対照とした二重盲検無作為化臨床試験にて、急性期心筋梗塞患者様に対するエリスロポエチン投与による慢性期心機能改善効果ならびにその安全性を検討することに致しました。対象は、20歳以上80歳以下の初回発症のST上昇型急性心筋梗塞患者様であり、発症から12時間以内に経皮的冠動脈形成術による再灌流に成功し、登録前の左室駆出率50%未満の低心機能患者様です。梗塞責任病変以外に血行再建術を必要とする病変を有する患者様は除外します。カテーテルによる再灌流療法成功後6時間以内に、試験薬エポエチンベータ6000単位、12000単位またはプラセボを静脈内に単回投与します。主要評価項目は心筋シンチ検査で評価した左室駆出率改善度です(急性期と6カ月後)。試験薬エポエチンベータは、腎性貧血治療薬として広く用いられている注射薬です。急性心筋梗塞はエリスロポエチンの適応外疾患ですが、高度医療(先進医療第3項)として正式承認され、薬事申請を念頭においた “質の高い”データ収集を目的とした臨床試験として認められております。患者登録期間は2011年9月1日から2015年8月31日であり、日本全国の多施設に協力して頂き、600名の患者様に参加を依頼する予定です。

急性心筋梗塞に対する新たな薬物療法の開発により、梗塞後心不全の発症および重症度の軽減につながり、患者様のQOL改善や心不全治療に関する医療費の軽減が期待できます。

立川メディカルセンター
相沢義房
大阪大学医学系研究科循環器内科 
小室一成