再任のご挨拶 −20年後を見据えて


一般社団法人日本循環器学会
代表理事  小室 一成
(東京大学循環器内科学)


 この度、一般社団法人日本循環器学会代表理事に再任されましたので謹んでご挨拶申し上げます。

 本学会は、昭和10年(1935年)に「日本循環器病学」誌が創刊され、翌年には第1回総会が開催されており、80年以上の長い歴史があります。このような伝統ある学会の代表を再度務めさせていただくことになり、大変光栄に存じますと共にその重責に身の引き締まる思いです。この2年間を振り返りつつ、今後2年間の抱負を述べさせていただきます。

 平成30年(2018年)6月時点で日本循環器学会の正会員数は26,219名、準会員数601名、循環器専門医数14,532名です。本学会は、国の法人制度改革に呼応して、平成24年(2012年)4月1日から一般社団法人に移行いたしました。正会員から女性33名、外科38名、小児科5名を含む283名が社員に選ばれていますが、平成30年(2018年)6月29日に開催された社員総会において32名の理事と2名の監事が新たに選出されました。理事32名の中には外科系より3名、小児科系より1名、放射線科系より1名、女性より2名が選出され、これまで以上に専門領域のバランスを考慮した運営が可能となりました。今期より学会のガバナンス強化を目的に監事は理事経験者と有識者(弁護士)から選ぶことにしました。また今まで30あった委員会を19にスリム化し、5つのセクションに振り分け、セクションのまとめ役として常務理事をおきました。これにより委員会、部会間の情報共有が可能となり、効率的な活動ができるものと思います。

 日本循環器学会は、会員数が毎年順調に増加し、我が国の医学会の中でも最大規模の学会に成長しました。また本学会は今まで循環器病学の研究、診療において数多くの輝かしい成果を上げ、素晴らしい伝統を築いてまいりました。しかし一方で現在の循環器医療を取り巻く状況は、決して楽観できるものではありません。総人口が減少する中で、循環器疾患患者数は増加の一途をたどっています。全年齢層における死因のトップはがんですが、高齢者における死亡者数ではがんと循環器疾患は変わらず、今後も増加し続ける後期高齢者では循環器疾患ががんを上回っています。我が国の平均寿命は世界2位を誇りますが、平均寿命と健康寿命との間には男性で9年、女性で12年の乖離があります。この乖離の原因のトップは脳卒中を含む循環器疾患です。我が国の医療費は年々増加し42兆円を超えていますが、最も使われているのは循環器疾患であり全体の約20%、がんの1.5倍です。がんは研究の進歩により発症機序に基づいた治療が可能となり治る時代に入ったのに対し、多くの循環器疾患の原因は不明であり未だ対症療法にとどまっています。そればかりでなく循環器疾患に関しては、正確な患者数も不明であり、治療や予後に関する全国的なデータもありません。一方で国からの研究費はがんとは比ぶべくもなく、創薬、デバイス開発は進むどころか以前より低迷しています。循環器医療における課題はこればかりではありませんが、このような課題はどれも1個人や1施設で克服できるものではなく、学会として多くの人の力を結集することが必要です。

 一昨年まずは我々自身の目標と戦略を明確にしようと考え、脳卒中学会等循環器関連学会と共同で「循環器病克服5か年計画」を策定しました。「5か年計画」では、“ストップ脳心血管病”を合言葉に健康寿命の延伸を大目標としました。重要3疾患として脳卒中、心不全、血管病を挙げ、5戦略として人材育成、医療体制の充実、予防・国民への啓発、登録事業の促進、基礎・臨床研究の強化とし、早々に実行に移しました。「人材育成」としては、今後我が国の基礎研究、臨床研究、チーム医療を牽引すると思われる若手に助成金を出し将来を担う人材の育成に努めました。「医療体制の充実」としては、急性期診療ばかりでなく、現在急増している心不全を念頭に、急性期から心臓リハビリテーションを含めた回復期、慢性期に至るまでのシームレスな診療を可能とするべく検討を始めました。「予防・国民への啓発」では、心不全の予防・啓発のためにシン・シン健康プロジェクトを開始しました。まずは国民に広く心不全について知っていただくために心不全のわかり易い定義を発表し、同時にその予防の重要性をアピールしました。国民に関心をもっていただくために忍者ハットリ君の弟であるシンゾウ君を啓発大使に任命し多くの媒体を利用し啓発に努めました。「登録事業の促進」としては、本学会が中心となり日本医療研究開発機構AMEDから助成をいただき、心不全、虚血性心疾患各1万人の登録事業を開始しました。その他にも心筋症、大動脈疾患、肺高血圧症など多くの登録事業を厚生労働省、AMED支援のもとに始めています。「基礎・臨床研究の強化」に関しては、学会内に基礎研究を活性化する「基礎研究部会」を作り、基礎研究の成果を発表する基礎研究フォーラム(Basic Cardiovascular Research, BCVR)を開催しました。本年1月に開催した第1回フォーラムには海外からの数十名を含む総勢450名を超える参加者があり、2日間全て英語で熱いディスカッションを行いました。さらに基礎研究、臨床研究活性化のために優秀な若手研究者に助成を行いました。

これからの2年間ですが、循環器疾患の重要性に関する国民への啓発をさらに促進し、がん以上に有効な予防の重要性をアピールしていきます。チーム医療を促進するために療養指導士の育成や実地診療に使いやすいガイドブックの作成なども行っていきたいと考えています。また疾患登録事業を進め、そのデータを諸策の立案に役立て、実地診療にフィードバックしたいと思います。臨床試験に関しても、昨年公布された臨床研究法に基づき、規則を厳格に遵守しつつ、ガイドラインや適応拡大に資するような質の高い試験を進めていきたいと思います。本学会が後援、協力することによりゲノム研究や疾患モデル動物研究に対して厚生労働省、AMEDから大型研究費を獲得できるようになってきました。今後もさらに日本循環器学会が中心となり、我が国の総力を結集して、基礎研究を推進することにより病態の解明から創薬やデバイス開発に繋げていきたいと考えています。その他、新専門医制度や他の国内循環器関連学会との連携、心臓移植のドナー不足、循環器救急、健保対策など多くの課題が山積しておりますがいずれに対しても真剣に全力で取り組んでいく所存です。これらの事業を大きく発展させるためにも「脳卒中・循環器病対策基本法」の成立を目指したいと思います。今国会での成立はかないませんでしたが、国民への啓発や循環器疾患の全患者登録、病院から診療所、在宅にいたる診療体制の整備等には行政の力が必要です。法案成立に向けて会員の皆様のご支援をいただければ幸甚に存じます。

最後に新しい話題を2つしたいと思います。本学会は82年間学会誌としてCirculation Journalを発刊してきましたが、投稿論文数が年々増加し、最近では年間約1500件の投稿があり、採択率は約25%と大変厳しくなっています。そこで来年1月より英文姉妹誌としてCirculation Reportsを創刊することにいたしました。Circulation Reportsは完全on-line公開とし、今まであまり掲載してこなかったチーム医療、医療制度、社会医学などの領域の論文も掲載することにしています。新しい学会誌であるCirculation Reportsの創刊を是非楽しみにしていただければと思います。

我が国においては急速に少子高齢化が進み、総人口が減少する中において、循環器疾患患者数は増加の一途をたどっています。循環器診療、研究に携わる人材の不足、減少が危惧される中で、国際化、とりわけアジア諸国との連携が重要です。本学会学術集会への海外からの参加者や日本への留学生が増えることにより、日本の医療の良さをアジアの諸国に広めると同時に一緒に臨床試験や基礎研究を行っていきたいと思います。一昨年本学会はAsian Pacific Society of Cardiology (APSC)に復帰しましたが、早々に2020年APSC学術集会の日本開催が決定しました。第84回日本循環器学会学術集会(京都)と同会場、同時期の開催となりましたので、APSCに参加される多くのアジア諸国の人たちが本学会の学術集会にも参加することにより、日本循環器学会、さらには我が国の循環器診療、研究の素晴らしさを実感していただけるものと期待しています。またAPSC加盟諸国からの要望で、日本循環器学会を中心にアジアのレジストリー研究やガイドライン作成が始まっています。今後はアジア諸国との連携をさらに密にし、アジアから新しいエビデンスや研究成果を世界に発信していきたいと思います。最後になりましたが、今夏の豪雨により被災されました皆様に、心よりお見舞い申し上げます。本学会としましても、災害時における支援活動を速やかに行えるよう体制を整備していく所存です。

今後2年間、20年後の将来を見据えながら、全力を傾けてこれらの課題に取り組んで参りたいと思います。会員の皆様におかれましては、これまで同様の温かい御指導、御支援の程、何卒よろしくお願い申し上げます。

2018年7月31日   日本循環器学会 代表理事 小室一成