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第7回 日本循環器学会プレスセミナー
講演4「成人先天性心疾患のチーム診療体制」 東京大学保健・健康推進本部 講師 八尾 厚史 氏

成人先天性心疾患は重症例ほど小児科医が単独で診療しているケースが多いが、患者数が増えている状況のなか、小児科医のみで管理することは困難である。また、精神的に未熟で自律性に乏しい患者が多く、成人期特有の問題も存在するという観点からも、チーム診療は不可欠となる。

八尾氏は「成人先天性心疾患のチーム診療体制」について、循環器内科の取り組みを中心に講演した。

先天性心疾患の移行期医療

移行期医療はさまざまな分野で遅れており、先天性心疾患もその一つである。移行期医療のあり方としては、①完全に成人診療科に移行、②小児科と成人診療科の併診、③小児科に継続受診の3つがあるが、患者数約50万人といわれる成人先天性心疾患では①、②を基本とした医療を行っていくべきと考えられる。

移行期医療では、患者・家族自身も自律を基本とする成人医療に慣れる必要がある。成人医療に馴染めずに脱落してしまう患者がいるが、その多くは自身の病気についての理解が足りないという問題がある。患者自身が自律・自己決定をしていくためには、小児科医、精神科医、看護師、臨床心理士、作業療法士、保育士、社会福祉士らが、小児期から患者を教育・支援していくことが必要となる。

循環器内科医の参入が必要

成人先天性心疾患患者を管理するには循環器内科医の参入が必要となるが、参入しても即戦力になるかという懸念があった。それについては八尾氏の成人先天性心疾患外来での診療経験から、ある一定の経験を積んだ循環器内科専門医であれば、小児科医との連携の下、成人先天性心疾患患者を管理することは可能という結論に至った。

ところが、循環器内科医の参入意向については、成人先天性心疾患の集約施設数を確認するために行った全国アンケート調査の結果によると、回答を得た109施設のうち「循環器内科がすべての成人先天性心疾患患者を診療する意向あり」と回答したのは33.9%と少なかった。また、「今後循環器内科として専門外来設置の意向あり」と回答したのはわずか9.2%であった。これらの結果から、循環器内科医の参入が最も急がれる事案と考えられた。

循環器内科ネットワークの活動

循環器内科医の積極的参入を促すために、八尾氏らは2011年に成人先天性心疾患対策委員会(循環器内科ネットワーク)を結成した。参加施設は結成当初8施設であったが現在は26施設と徐々に増えている。

循環器内科ネットワーク各施設に対しては次の5つを提案し、協力を得ている。

①循環器内科の関与した専門外来開設

②小児科と協力して、患者データの収集や治療に関してのエビデンス構築

③成人先天性心疾患総合診療施設へ向けての努力

④成人先天性心疾患診療の研修や成人先天性心疾患専門医制度の構築に関する協力

⑤その他、今後の活動に関して意見交換/協力して成人先天性心疾患診療体制を作成推進する

①については小児科医との連携を深め、難しい症例は併診を行うようにする。併診によって移行医療に徐々に慣れるという意味合いから患者の不安が軽減し、脱落しにくくなると考えられる。

循環器内科ネットワークにおける調査

循環器内科ネットワークにおいて、成人先天性心疾患専門外来の稼働状況と診療上の困難・要望について調査し、19施設から回答を得た。その結果、11施設は循環器内科主導型成人先天性心疾患専門外来が無く、そのうちの6施設はそれを当面設置する気がないことが判明し、今後も促進が必要な状況と考えられた。

循環器内科医が診療上困難と感じていることは、「精神心理的問題への対処」が最も多く、次いで「親子関係への対処」すなわち、母親連れで来院するため誰に病気のことを説明し、誰に意思決定を求めるかが難しいという声が多かった。診療上最も必要と感じているものは「多職種による精神心理的ケア」であり、チーム診療の重要性がうかがえた(図1)。そのほか、「研修やセミナーの実施」、「医療費補助の充実」、「循環器内科医の積極的参加」、「障害年金制度の充実」、「教育・訓練施設の充実」といった要望が多かった。


図1 成人先天性心疾患診療上の要望(循環器内科医)

小児循環器内科医を対象に同様の調査を行ったところ、回答を得た113施設のうち半数以上は小児科が単独で診療している状況であるが、今後の診療については専門施設や診療科へ移行させたい、併診したいという回答がそれぞれ5割、3割であった。小児科医が診療上困難と感じていることについては循環器内科医と同様に「精神心理的問題への対処」が最も多く、この疾患の根本にある問題点の一つであることがわかった。また、診療上の要望は循環器内科医とほぼ同様であった。これらの調査で多く挙げられた要望点を整備していくことが今後の課題となった。

今後あるべき成人先天性心疾患の診療体制

2012年末に日本循環器学会内に学術部会が作られ、循環器専門医で成人先天性心疾患を専門に診療する医師の養成を循環器学会主導でも行える体制になりつつある。しかし現在はまだ不足している状況で、循環器内科専門医のさらなる参入が期待される。

最後に八尾氏は、今後あるべき成人先天性心疾患の診療体制を示しつつ(図2)、「臨床心理士などを含むチーム診療体制を整え、同時に社会福祉制度も充実させていきたい」と今後の意向を述べ、講演を締めくくった。


図2 今後あるべき成人先天性心疾患の診療体制

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