ヘッダ
第7回 日本循環器学会プレスセミナー
講演2「成人先天性心疾患の合併症と対応」 千葉県循環器病センター 成人先天性心疾患診療部 部長 立野 滋 氏

先天性心疾患に対する治療法は進歩し、昔は死に至っていた重症例に対する手術が可能となった。一方で、術後の合併症が問題となっており、経年的に増加している合併症も少なくない。

立野氏は、成人先天性心疾患の合併症と対応について概説し、合併症に対する早期の適切な治療介入の重要性について述べた。

成人先天性心疾患の合併症の現状

2010年の海外の報告によると、成人先天性心疾患患者における死亡原因の1位は「心不全(26%)」、2位は「突然死(19%)」となっている。また、突然死の原因は「不整脈」が7割以上を占めているという報告もある。このことから、先天性心疾患患者の管理では、これらの合併症を予測・早期発見し、予防あるいは早期の適切な治療介入により罹病率や死亡率を低下させ、QOLの改善を目指すことが求められている。

単純先天性心疾患の場合、現在では小児期に行う心内修復術や不整脈治療によって先天的異常はほぼ正常化するが、複雑先天性心疾患の場合、病的状態が持続するケースや、手術に伴う続発症、異常の遺残、加齢変化によって病的状態が悪化するケースがあるため、術後もほぼ一生にわたって管理が必要となる。心内修復後には、心不全をおこすと不整脈も出やすく、不整脈をおこすと心不全も出やすいといったように、合併症の原因と結果が複雑に絡み合って病態が形成される(図1)。


図1 心内修復後の合併症の種類と原因

ファロー四徴症の術後遠隔期の管理

ファロー四徴症とは

ファロー四徴症は最も多い複雑先天性心疾患で、大動脈騎乗、心室中隔欠損、肺動脈狭窄、右室肥大という4つの特徴を有する。肺動脈狭窄の程度により病態はさまざまで、狭窄が強いタイプでは、低酸素の血液が大動脈に流れることにより全身チアノーゼ状態となる。一方、狭窄がないタイプではチアノーゼはないが、左心室の血液も肺動脈に流れてしまい、肺高血圧や呼吸不全をおこす。

ファロー四徴症に対する心内修復術では、心室中隔欠損をパッチで閉鎖したり、肺動脈下部の狭窄している筋肉を削り取るが、最近では肺動脈の弁輪が小さい場合や弁形成が非常に悪い場合には弁付きパッチを用いることが多い。

ファロー四徴症の合併症とその治療

弁付きパッチの使用増加に伴い、術後遠隔期における弁機能不全も多くみられるようになった。石灰化等によって弁が狭くなると肺動脈の狭窄がおこり、右心室および右心房の圧が高まる。逆に、弁を広げすぎてしまうと肺動脈弁の逆流が生じて右心室の容積が増し、三尖弁逆流、右心房肥大をおこして心筋自体が障害される。それが原因となって生じる右心不全や不整脈・突然死が問題となっている。2000年に発表された海外の研究では、ファロー四徴症の術後遠隔期不整脈は心室性頻拍、心房性頻拍ともに約30年の経過で10%前後に出現したと報告されている。さらに長期間観察した2010年の報告では、55歳以上では心房頻拍・心房細動が約5割、心室頻拍・心室細動が約3割に認められ、加齢変化が強く影響していることがわかる。

このような合併症に対しては、内科領域で行われている治療にくわえて、弁機能不全に対する肺動脈弁置換術や三尖弁形成術、瘢痕化した心筋の切除、不整脈の手術も行う点が先天性心疾患患者管理の特徴といえる(図2)。肺動脈弁置換術に関しては国内外で良好な成績が報告されている。


図2 ファロー四徴症の合併症に対する治療

Fontan術後遠隔期の諸問題

三尖弁閉鎖症は非常に特殊な病態を呈する。三尖弁が閉鎖しているために右心室がほとんどなく、全身の血液は大動脈に流れてしまい、肺には大動脈から動脈管を通じて血液が流れている状態で、チアノーゼが強くなる。このような症例に対して、以前は右心房と肺動脈を直接つなぎ、心室からの血液はすべて大動脈に流すようにするFontan術を施行していた。しかし、右心房の圧上昇や拡大といった問題が浮上したため90年代頃からほとんど行われなくなり、代わりに、人工血管を用いたり右心房部をなるべく少なく使用してパッチをあてるといったTCPC術が行われるようになった。

しかし、90年以前にFontan術を施行した症例は少なくなく、不整脈のほか、うっ血性心不全に起因する全身の障害が経年的に増えた(図3)。特にFontan術後の心房性頻拍は、20年の経過で約6〜7割に出現したと報告されている。


図3 Fontan術後の諸問題

Fontan術後、心筋障害がみられる症例に対してはTCPC転換術を行う。TCPC転換術後における不整脈の再発率は15年後でも15%程度と非常に低いことが報告されている。Fontan循環が破綻した時期を逸しないでTCPCに移行することが大事なポイントといえる。

今後の合併症管理

先天性心疾患にはさまざまな疾患・病変・重症度があり、術式の進歩や術者・手術時期の違いから、術後は多種多様な病態を呈する。また、多数例での臨床データが少ないのが実情であり、施設や時期によって結果も異なる。最後に立野氏は、「このような状況のなか、患者さんの生命予後・QOLを改善させるために、まずは心疾患を理解し、手術方法と術後の病態をしっかりと把握する。そして多様化した個々の患者さんの病態を捉えて、適切な時期に適切な治療を行うことが重要である」と今後の合併症管理のあり方を訴えた。

▲PAGE TOP