三田村秀雄氏

医療従事者でも胸骨圧迫マッサージがベター

会場 一般の発見者が一次救命処置を行う場合、胸骨圧迫のみがいいということですが、医療従事者が処置する場合はどのようにしたほうがよいのでしょうか。

長尾 医療従事者でも、慣れていない方、具体的には胸骨圧迫心臓マッサージと人工呼吸が30対2の割合で、かつ胸骨圧迫心臓マッサージを強く・早く・絶え間なく1分間100回前後の割合で実施することができない方であれば胸骨圧迫心臓マッサージだけがよいと思います。胸骨圧迫心臓マッサージと人工呼吸を併用すると、呼吸法に力が入ってマッサージの回数が減るのです。マッサージを一所懸命やるほうが、より効果が上がり蘇生率の向上につながると思います。

意識も呼吸もなければ、原因にかかわらず、まずは胸骨圧迫心臓マッサージを

会場 自動体外式除細動器(AED)が最も有効なのは心室細動の場合だということですが、一般市民でも心室細動かどうかを見分けられるものでしょうか。

野々木 見ただけでは、心室細動かどうか判別することはできません。しかし、AEDを装着すると自動的に心室細動を認識してショックが必要ですという指示を出してくれます。 ですから、必要な時に誰でもすぐに使えるよう、AEDの設置を増やすことが大切です。

会場 脳卒中が原因で心停止になった場合でも、胸部圧迫心臓マッサージを施してよいのでしょうか。

野々木 じつは、突然倒れたという方のほとんどが心臓が原因です。しかし、脳卒中で倒れたか、あるいは心臓で倒れたかを見分けることは困難です。まずは、呼びかけてみて反応がない、そして呼吸もないという場合は、胸骨圧迫を行いましょう。この点は脳卒中でも心臓性でも共通です。たとえば、くも膜下出血も突然死を引き起こしますが、その場合も、やはり心臓と同じ処置をすれば助かるチャンスがあります。

質の高い心肺蘇生法とは

会場 質の高い心肺蘇生というのは具体的にどういうものでしょうか。また、地域社会での医療連携体制の構築というのは、たとえばコミュニティセンターにAEDを配置するといったようなことでしょうか。

高山 心肺蘇生法は2005年に大幅に変わりました。これまでは、胸骨圧迫心臓マッサージを15回やって人工呼吸を2回する方法がよいと教えていましたが、それではあまり心臓を押せていないことがわかりました。そこで多くの実験ならびに臨床研究の報告を調べたところ、胸をしっかりと圧迫して人工呼吸は浅く小さい方が、ずっと効率がよく生存率も高いことがわかりました。このように、効果の上がる心肺蘇生をあらためて学んでいただき、有効な心肺蘇生を実施することを質の高さと考えています。
  地域の医療連携体制の具体策としては、コミュニティセンターのような公共の場所にはぜひAEDを設置して、周辺の市民は心肺蘇生の講習を受けていただき、救急隊との連携と救急診療病院の受け入れ体制を無駄なくシステム化する事です。

家庭へのAEDの設置

会場 現在、AEDの設置が公共の場などで進んでいますが、突然死は家庭で起こる率がとても高いということが、本日紹介されておりました。家庭でAEDを安く設置することはできるのでしょうか。

三田村 安いとは言えませんが、家庭にAEDを常設することは可能ですし、ある期間だけレンタルするという方法もあります。たとえば、心筋梗塞患者は退院してから半年ぐらいが比較的リスクが高い時期ですが、そういう時期にAEDをレンタルするということもあり得るでしょう。家人が目撃する必要があるので、心臓病患者の自宅にAEDを設置するとどれだけ有効かというデータはまだありませんが、心臓病患者やその家族に対するAED講習なども行われておりますし、今後長期的に見て、家庭へのAEDの設置が有効性を増す可能性はあると思います。

一般市民に一次救命処置の徹底を

笠貫 本日は、日本の心肺蘇生分野を担う4人の先生方にご講演いただきました。10万人の突然死のうち、4万人が心室細動によるもので、これはAEDで救命できることをご理解いただけたと思います。また、AEDがなくても胸骨圧迫心臓マッサージを行うだけで救命率があがることも紹介されました。胸骨圧迫心臓マッサージによる一次救命処置を一般市民にも徹底してもらいたいということが、本日のメッセージです。今後は、AEDの設置および使い方をさらに普及させていくのが、われわれの役割だと感じています。本日は誠にありがとうございました。